全ての始まりは、私が住む賃貸マンションの、下の階の住人からの、一本の電話でした。「あの、天井から水が漏れてきているのですが…」。その言葉に、私の頭は真っ白になりました。慌てて、自分の部屋の床を確認すると、洗濯機が置いてある脱衣所の床が、水たまりになっているではありませんか。どうやら、洗濯機の底から、水が漏れ続けていたようです。洗濯パンが設置されていなかった私の部屋では、漏れた水が、そのまま床の隙間から、階下へと浸透してしまっていたのです。原因は、すぐに分かりました。洗濯機の排水ホースが、床の排水口から、完全に外れてしまっていたのです。おそらく、洗濯中の振動で、少しずつずれていき、ついに外れてしまったのでしょう。私は、自分の管理不足を呪いながら、平謝りに謝り、すぐに管理会社と、保険会社に連絡を入れました。それからの数日間は、まさに地獄のような日々でした。下の階の部屋の被害状況の確認、管理会社や、保険会社の担当者との、何度も繰り返される電話連絡。そして、何よりもつらかったのが、下の階の住人の方へのお詫びでした。幸い、相手は非常に理解のある方で、怒鳴られたりすることはありませんでしたが、それでも、申し訳なさと、自分の不甲実さで、顔を合わせるのが、本当に苦痛でした。最終的に、下の階の天井のクロス張り替え費用や、濡れてしまった家具の弁償費用など、損害賠償額は、数十万円にものぼりました。そのほとんどは、幸いにも、私が入居時に加入していた火災保険の「個人賠償責任保険」で賄うことができましたが、保険に入っていなかった場合のことを考えると、今でも背筋が凍る思いです。この苦い経験を通じて、私が学んだのは、いくつかの重要な教訓です。一つは、洗濯機の排水ホースは、定期的に、緩みや外れがないかを確認するという、基本的な注意義務。そして、もう一つは、賃貸暮らしにおける「保険」の、本当の重要性です。あの保険がなければ、私の人生は、あの水漏れ一つで、大きく変わってしまっていたかもしれません。たかが水漏れと、侮るなかれ。それは、あなたの平穏な日常を、一瞬にして奪い去る、恐ろしい破壊力を持っているのです。